新聞記事やニュースで見つけた、個人的に気になった会計関係の話題をご紹介します。
コロナで相次ぐ減資
コロナで相次ぐ減資
「大きな中小企業」税の公平性欠く
2021/3/7 日経新聞電子版 経済
上記の記事では、近年大企業が資本金を減らして形式的に中小企業となる事例が相次いでいることが紹介されていました。
一般的に知られた企業であっても区分としては「中小企業」に該当することがあります。
それがどのように影響しているのかについて詳しく見ていきます。
減資とは
一般的には聞き慣れない言葉かもしれませんが、減資とは企業が資本金を減少させる手続きのことです。
資本金は株式会社であれば株式を発行して集めた資金であり、この資本金を減少させることになります。
次に減資の目的とメリットについて見ていきます。
減資の目的、メリット
減資の目的とメリットは下記の通りです。
- 株主への還元
→黒字でなくても配当を行うことができ、株主との関係を良好にできる。 - 欠損の補填
→欠損の補填をすることで財務諸表の見栄えが良くなり、金融機関からの融資の際に有利になる。 - 節税
→資本金を1億円以下にすることで、税制的な優遇を受けることができるようになる。
上記のように、主に3つの目的とそれぞれに対してメリットがあります。
この中で、記事で紹介されていたのは③の節税目的となります。
続いて減資による節税と記事の内容について詳しく見ていきます。
資本金1億円以下かどうかが重要
先ほどは減資による節税で税制的な優遇を受けることができると記載しましたが、例えば資本金が1億円以下であると「外形標準課税」というものが対象外になります。
この外形標準課税とは、企業の利益の金額ではなく企業の規模によって徴収される税金のことです。
これは、企業は様々な公共サービスの恩恵を受けており、そのサービスは企業の規模が大きければ大きいほど多く受けているであろう、という考え方によって徴収されているもので、この企業の規模を計る際に資本金の金額を使用しています。
資本金が1億円を超過していれば大企業のため課税対象であり、1億円以下であれば中小企業なので課税対象外と形式的に定めています。
そのため、どれだけ利益があろうが従業員数が多かろうが関係なく、資本金の金額によって外形標準課税の対象となり、これを避けるために大企業が減資を行い中小企業扱いとなって節税をするケースが増えているそうです。
減資により大企業が中小企業へ
記事によると、2011年度に約3万3千社あった資本金1億円以上の企業は、2018年度には約3万社に減少しているそうです。
さらに、2020年には上場企業だけで16社が資本金を1億円以下に減資して節税をしているようです。
もともと規模が小さく経営に余裕のない企業に配慮するために設定された税制ですが、それが本来の意図ではない目的で運用されてしまっています。
例えば、コロナの影響を受けたJTBが資本金を1億円に減資していたり、直近ではパナソニックとソニーの有機EL事業を統合したJOLEDが877億円だった資本金を1億円にするというニュースもありました。
この減資は合法的な資本政策の一環であり、資金流出を防ぐための合理的な方法である一方、税の公費姓の観点からは問題視する声もあります。
そもそもは企業が存在するだけで行政サービスを受けている分、赤字であったとしても納税するべきだという考えで始まっているので、組織として大きな企業が納税の抜け道として減資を活用することには反対意見も当然出てきます。
当然政府も黙ってみている訳にはいかないため、外形標準課税以外の税制では資本金以外の判定指標を用いて企業規模を測定し、本来的な意味で優遇させたい中小企業のみが優遇されるような税制改正を行っている部分もありますが、国税や地方税の根本部分の区分は変わっていません。
法人税に限りませんが、誰かを優遇すると誰かの負担が増えることになり、その影響を見ながら変更しなければならないため、政治的には判断が難しいもののようです。
とはいえ、「大きな中小企業」が増え続ければ経済や社会のゆがみは大きくなり、制度と実態がそぐわなくなることは目に見えています。
実態と合った税制とするために私たちにできること
今まで述べてきたことは、減資には節税というメリットがあり大企業から中小企業に見た目を変えることで利益が増やせるというものでしたが、減資にはデメリットも存在します。
それは企業の信用力が低下することです。
企業が相手企業を取引先として信用するかどうかには様々な判断基準がありますが、その中でも資本金の大きさがある程度の指針となります。
特に有名ではない企業にとっては資本金の金額で企業規模を示すことでき、資本金が大きいことで信用される傾向はあると思います。
一方、有名企業であれば資本金の金額によらず信用力があるのが現状です。
そのため、減資をするデメリットが小さいと判断して節税に勤しんでいるわけです。
これは、ある意味取引先を馬鹿にしているような状態ではないでしょうか。
社会的役割を全うせず、自分たちの懐を暖めるための施策を公然と行っている企業に対し、社会貢献をするつもりがない企業であると判断できる人が増えれば自ずと是正されるような気がしています。
少なくとも、企業の目的は利益を出して納税することである、という考えを持っていた松下幸之助さんが創業したパナソニックの関係会社が減資を行うというのは、個人的には理解しがたいものがあります。
国民一人一人があらゆる知識を習得し、一部の富裕層だけが良い思いをするような国にはなってほしくないと思います。