新聞記事やニュースで見つけた、個人的に気になった会計関係の話題をご紹介します。
博報堂DY系で架空発注
経理、点検緩く被害拡大 博報堂DY系で架空発注
「強い事業部門」 力関係が遠因か
2021/2/2 日経新聞 朝刊
架空発注で7億円被害か 博報堂DY系 元社員ら逮捕
2020/111/16 日経新聞 電子版 社会・くらし
上記の記事では、2016年5月~2019年7月にかけて博報堂DYMPで行われた架空発注の仕組みと不正が発覚しなかった理由について紹介されていました。
今回の架空発注の仕組みを簡単にまとめると下記の通りです。
- 広告主が博報堂DYMPにテレビCM制作を発注
- 容疑者が旧知の取引先と共謀して架空取引の請求書発行
- 正規の発注に紛れ込ませて博報堂DYMP経理に請求書提出
- 外注費として架空取引の取引先に支払い
- 一部を容疑者にキックバック
企業では当然不正をチェックするための仕組みをいくつも用意していますが、それをかいくぐった訳です。
なぜそのチェックをかいくぐることが出来たのかについて、企業が実施している不正防止策と今回のケースについて見ていきます。
不正を防止するためには何をしているのか
企業により実施している不正防止策は異なると思いますが、ここではわかりやすいものについてご紹介します。
- 取引先を評価し、基準に合った取引先とのみ取引を行う
- 外注企業とやり取りをする人間と発注者を分ける
- 発注書、納品書、検収書、請求書を定められたフォーマットで準備し、取引内容を明確にする
- 残高確認書を取引先に送付し、相互の取引内容に齟齬がないことを確認する
- 定期的に人事異動を行う
上記対策は不正を起こしにくくするためのものであり、これをかいくぐったものの中に不正がないかどうかを別の方法で確認するのが通常です。
そこは企業ごとに方法も異なると思うので今回は言及しませんが、概ね上記の対策をすれば形式的には不正防止を行っていることになります。
それでは、今回の事例では上記はどうだったのかを見ていきます。
架空発注が発生し、その発生に気がつけなかった理由
それでは順番に見ていきます。
- 取引先を評価し、基準に合った取引先とのみ取引を行う
→記事には言及がなかったが、もし基準から外れていても理由をつけて取引を実施していた可能性がある
→→発注部門を通し、そこで取引先の管理が出来ていれば防げる可能性は上がる - 外注企業とやり取りをする人間と発注者を分ける
→記事を読む限りは容疑者が発注行為まで実施していた可能性が高い
→→発注部門がなかったため、取引先と共謀出来ればいくらでも架空発注が可能だった - 発注書、納品書、検収書、請求書を定められたフォーマットで準備し、取引内容を明確にする
→経理担当者が確認していたが、記載内容や形式に不備はなかった
→→経理処理上問題ないように準備をしていた - 残高確認書を取引先に送付し、相互の取引内容に齟齬がないことを確認する
→実際に発注行為はされているので、残高確認書上の齟齬はなかったと考えられる
→→残高確認書は企業担当者が単独で不正を行っていたときには有効だが、取引先と共謀されてしまうと効果がない - 定期的に人事異動を行う
→特に言及はなかったが、旧知の取引先と共謀して行っていたため別部署でも別の方法で実施することは出来た可能性がある
→一定の効果はあるものの、取引先と共謀されてしまうと不正防止にはつながらないケースは多い
上記記載したように、不正行為については取引先と共謀されてしまうと非常に厄介で、なんとか企業担当者と取引先との間に第三者が介入できないとやりたい方題されてしまうリスクが高まります。
そのための対策が発注部門を挟むことになるのですが、博報堂DYMPでは実施していなかったようです。
博報堂DYMPの実施した対策
実は今回の事例ではかなり大胆に架空発注がされており、広告主からの受注金額の数倍の外注費が発生しているケースもあったようです。
これは、広告主からの1注文単位で見ると赤字になると言うことなので、プロジェクト収支管理を1注文事に見ていれば明らかに怪しいと気がつけたものになります。
ただ、この会社では一定期間の総額でプロジェクト収支管理を行っていたため、なかなか気がつかなかったようです。
そこで再発防止策として、取引の管理体制を改善させるために会計システムを改修し、放送枠の価格や広告主からの受注額を外注費と比較できるようにしたようです。
どうやら発注部門については記載がなかったので不明ですが、第三者の目を入れることは不正防止の観点から言えば有効です。
ただし、業務が増えることになるため人員の確保と人件費の増加という別の問題点が出てきます。
これはセキュリティの話と同じで、どこまでお金をかけて安全性を確保するのかのバランスを取る必要があるものなので、これ以上は言及しません。
架空発注を防げない経理に価値はあるのか
記事の中で日本公認不正検査士協会理事の辻さんの言葉が記載されており、今回のような専門性が高く妥当な価格がわかりにくい分野だけが不正の発生源になるわけではなく他の業種でも発生する可能性があることと、日本企業では利益に直結する部門が経理などの管理部門よりも強い力を持つ傾向が強いことを指摘されていました。
私が経験してきた企業では正しいことを正しいと言うことに対して理解があるケースが多かったのですが、そうではない企業もあると思います。
そのような企業では経理が不正に気がついても口出し出来ない土壌があり、適正な企業統治がなされていないのかもしれません。
個人的にはこのような企業の経理は役割を十分に発揮出来ておらず、価値が半減している状況だと思います。
もちろん経理の役割としては現場からの情報を収集、集計して財務諸表にするという最低限の業務はあると思いますが、その財務諸表の内容を担保するのも経理の役割にはあります。
それは経理だけに求められるものではなく、会社全体で担保すべきものではあると思いますが、あらゆる情報が集まってくる経理が主体で不正対策をするのは理にかなっていると思います。
そういう意味で、社内で協力して不正防止ができない企業の経理は、価値がないとは言いませんが、価値を高める余地は十分にあると思います。
もし不正を正せない土壌があったらどうするべきか
何のために不正を防止するのかというと、法律違反による損害賠償を防ぐことだけでなく、現在の取引先やこれから取引先になる可能性のある利害関係者に対して誠実な企業であることを理解していただき、長期的な取引をしてもらうためでもあるはずです。
短期的な利益を重視し、利害間記者との関係性を考えない企業に将来はないと思うので、もし不正に対して口出しするなと言われるような企業からは早期に脱出することをおすすめします。
理念の合わない組織にいつまでもいる必要はありません。
せっかく身に付けた経理知識を「経理作業ができる」だけで終わらせるのはもったいないですよ。